*以下は筋膜リリースの仕組みがわかる引用中心の記事となります。筋膜について理解の一助となれば幸いです。
首や肩が慢性的に凝り、ときに痛みを感じる。整形外科で診てもらったが、異常なしと言われた……。
そうした原因不明の「凝り」や「痛み」の背景に、「筋膜」を含む皮下組織の不具合があることが分かってきた。
この皮下組織の名は「ファシア(fascia)」。
聞き慣れない言葉だが、ファシアをほぐす(=fascia release)ことで、つらい凝りや痛みの予防・改善が可能だという。
原因不明の凝りや痛みの根本には皮下組織の癒着があった
●デスクワークが長時間に及ぶと、首や肩が凝り、慢性的に重だるい感覚がある。
●猫背で肩が前側に入った姿勢をなかなか正せない。
●凝りが悪化して痛みを感じるようになり、整形外科を受診したけれど、診察やレントゲン検査では「異常なし」と言われて痛み止めや湿布だけもらってきた。
――このような経験はないだろうか。
「整形外科領域では、患者さんの訴える症状の原因をピンポイントで突き止めることが難しいケースが多くあります。
例えば、腰痛などの痛みで受診された患者さんには『 レッドフラッグ』と呼ばれる、悪性腫瘍などの見逃してはいけない病変がないかをレントゲンで確認します。
脊椎の変形や、骨粗しょう症による圧迫骨折などがあると分かれば、原因に対する治療を行うことができます。
しかし、現在ある検査の技術では原因が特定できない場合が多いのが現状です。
この場合、つらい症状を抑えるための鎮痛薬、神経ブロック療法、理学療法などの対症療法を行うことになります。
しかし、対症療法を行ってもあまり良くならない、という方も多く存在します。」と、整形外科学の教授は言う。
画像診断ではどこにも異常がないのに、強い痛みを感じる、という人も多いという。
このような「原因不明の凝り・痛み」に密接に関わり、予防や改善のカギを握っているのが「ファシア(ファッシアとも言う)」という皮下組織だ。
外科手術の「邪魔者」だった「ファシア」の意外な役割
一般的な解剖学では、個々の筋肉をそれぞれ独立して存在するものとして論じてきた。
だが、個々の筋肉を包む筋膜同士はつながり合い、力を伝達するなどして、影響を与え合うラインを形成していると説く。
筋膜は、前述した通り「ファシア」と呼ばれる結合組織の一部であり、ファシアは、皮膚の下に存在する、綿菓子のように柔らかく、縦横斜めに伸び縮みする、網目状の組織だ。
整形外科医は、骨折のときなどに骨同士を金属プレートでくっつける骨接合術を行うが、このとき皮膚を切り、筋肉を分けて骨に到達する必要がある。
ファシアはそこに到達する前に必ず存在するため、多くの医師はこの組織を「邪魔者」としてよけて剥がすのだという。
「ファシアは手でグイッと押したりするだけで、簡単に剥いだり寄せたりできるのです。
しかし、その際、毛細血管から出血すると、ファシアが癒着して固まったりする原因になります。
そして、『 ファシアに不具合が生じると筋肉や関節の動きに悪影響がある』ことを、経験的に知っいる整形外科医が多かった。
手術から2年ぐらいして、体内に入れていた金属プレートを取り除く『抜釘術(ばっていじゅつ)』をすると、手術時に剥がして放置したファシアに癒着が起こっていて、本来は柔らかいファシアが、硬くなり筋肉などにべっとりとくっついている。
その癒着を丁寧に剥がして患部を閉じると、それまで動きが悪くなっていた関節の動きが見違えるように良くなることがある。
このようなことから、ファシアはただの邪魔者ではなく、何らかの機能を果たしているのだ。
ファシアの一部である深筋膜の繊維
股関節手術において、なるべく筋肉などの組織を切開しない「最小侵襲手術」に取り組んでいる整形外科医もいるが、「このときにもファシアを丁寧に扱い、できるかぎり剥がさず、癒着の原因となる出血を起こさないように手術を行うと、術後のリハビリがほとんど必要なくなるほど、回復が良いことを実感しています」(整形外科医)と言う。
ファシアの硬化や癒着は生活習慣などによっても起こり、しつこい凝りや痛みといった、原因のはっきりしない慢性症状とも密接に関連する。
ファシアを効果的に刺激することが、そうした症状の改善につながることも分かってきた。
実際、硬くなったファシアに注射で生理食塩水を注入する「ハイドロリリース」など、ファシアに着目した新しい治療法も近年注目を集めている。
ファシアはなめらかにすべることが大事
「前述した通り、筋肉を包んでいる筋膜はファシアの一部で、筋膜は正確には『 マイオファシア』と呼びます(※マイオは『 筋肉』の意)。
ファシアは筋膜よりもさらに広い概念で、筋肉だけでなく、内臓なども広く包んでいる網目状の結合組織のことを言います。
ファシアは顔にも手のひらにも、全身に存在します。鶏肉の皮を剥ぐときに現れる、肉にぴちっとついている薄い膜、あれがファシア。水分を含み、みずみずしく、網目状で、手術中に触れるとふわふわと綿菓子のような質感をしています。
「柔らかく、手で触れると、水分がじゅわっと染み出てきます」(整形外科医)
水分を含んている筋膜
ファシアは、臓器や筋肉を正しい位置におさめる「梱包材」のような役割をしている。
「それだけでなく、このふわふわした膜状の薄い組織は、頭のてっぺんからつま先まで張り巡らされ、ファシア同士がつながり合うことで筋肉同士に影響を与え合っていること、ファシア同士のつながりは体の中でいくつかのライン(ネットワーク)を形成し、力や感覚刺激を伝え合っていることが分かってきたのです」(整形外科医)
ファシアの語源はラテン語で「帯状のもの、バンド、紐」などを指す「fascia」と言われているが、その名の通り、ファシアは体の中で帯状につながってラインを形成している。ラインには、頭から足底まで、体の背面に連なるもの(バックライン)、前面に連なるもの(フロントライン)など、複数の種類があり、いくつものラインが重なり合うように私たちの体を覆っている。
一方、腰痛や肩こり対策で、強く揉(も)んだり叩(たた)いたりする人も多いが、実はそれは逆効果になることもある。「強く揉んだり叩いたりすることでファシアが傷つけば瘢痕(はんこん)化して硬くなる」(整形外科学教授)と説く。
主要なラインの例。
ファシアの連続体(ライン)には、体の背面を覆うバックラインや前面を覆うフロントラインなど複数あり、私たちは何枚ものファシアのボディースーツを重ね着しているようなものだ。
「私たちはあたかもファシアでできた何枚ものボディースーツを重ね着しているような状態です。これらファシアのラインは張力によってぴんと張られた状態にあり、力を伝え合ったり、力を増幅し合ったりしています。また、ファシアの状態が良いかどうかで筋肉の動き方も変わってきます」と整形外科医は言う。
皮膚の下に脂肪、そして筋肉に至る間に浅い層のファシア、そして、筋肉のすぐ上に深い層のファシア(筋膜)がある。ファシアは脂肪と脂肪、脂肪と筋肉の間にサンドイッチのように挟まっている。ファシアが良い状態、つまり適度な水分を含み、伸縮性が良く、皮膚と筋肉の間をすべるように動く(滑走性と言う)状態だと、体をなめらかに動かすことができる。逆にファシアが水分を失い、硬くなり、筋肉などにべったりくっつくと、体をなめらかに動かせなくなる。
例えば、ひざを曲げるとファシアとその下の層にある筋肉がうまくずれるように動く。だが、ファシアが癒着するとこの動きがスムーズにいかず、ひざが一定以上は曲がらなくなるというわけだ。「ファシアは見えない場所で、縁の下の力持ちとして体の機能を支えているのです」(整形外科医)
ファシアを変性させる4つの要因とは?
「ファシアには感覚受容器があると考えられています。この感覚受容器は、2021年のノーベル生理学・医学賞でも話題になった感覚センサーです。ファシアが癒着したり、よれたりしていると、感覚受容器のセンサーが反応して痛みを感じたり、関節の可動域が制限されます。このようなときに超音波(エコー)で観察すると、ファシアが白く分厚くなっていることが多いです。一方、ファシアを適切に圧迫したり、動かしたりすることによって痛みの閾値(いきち)が上がり、痛みを軽減できるのでは、と研究を進めています」(整形外科医)
ファシアの状態を悪化させる4つの要因